ベスト文集制作記録④(本文の組み方①・フォント篇)

ここからは小説誌の血肉とも言うべき本文の組み方について述べる。

本文の組み方①・フォント篇

まずはフォントの選定である。フォントは小説向きのものを選ぶこと、これが鉄則である。小説向きのフォントとは、例えば次のようなフォントを言う。

以下、各々のフォントについて簡単に解説する。

游明朝

游明朝は最も小説向きであると言えよう。癖がなく、上品で、読みやすい。しかも公式サイトには次のように書いてあり、小説用に開発されたフォントであることが明言されている。

游明朝体ファミリーは「時代小説が組めるような明朝体」をキーワードに、単行本や文庫などで小説を組むことを目的に開発した游明朝体Rを核とした明朝体ファミリーです。

游明朝は現在、WindowsおよびMacに標準で付属しているので、誰でも簡単に使用可能である。よい時代になったものである。しかし逆に言うと、最近は小説同人誌でよく見かけるフォントとなってきており、個性を発揮して他との差別化を図りたい向きには物足りないかもしれない。

ヒラギノ明朝

ヒラギノ明朝は、Macについてくる美しいフォントである。ファンも多く、ヒラギノ目当てでMacを買う人がいるほどである(「ヒラギノを買ったらMacがついてきた」という言い方が定番ネタとなっている)。

ただしMacについてくるヒラギノ明朝はウェイトがW3であり、小説本文に使うにはやや太くかつ平仮名がやや大きめである。W3よりも細めのW2であれば、平仮名がやや小さく設計されているのでより小説に向いていると言えるであろう1。ただし、W2はMacに付属していないので別途購入の必要がある。

しっぽり明朝v2

しっぽり明朝v2はフリーフォントながら綺麗なフォントであり、小説に向いている(もっとも私自身は使ったことがないので使用感はよく分からない)。公式サイトには次のような説明がある。

しっぽり明朝は、石井中明朝体OKLやリュウミンKO、A1明朝、筑紫Aオールド明朝等に影響を与えた、東京築地活版製造所の名作書体である五号系活字を下敷きに、物静かで上品で、見ているだけでうっとりするような明朝体を目指して制作した、オールドスタイル明朝体フリーフォントです。

五号系活字が好きな人にはおすすめのフリーフォントである。

源暎こぶり明朝

源暎こぶり明朝もまたフリーフォントながら綺麗なフォントであり、小説に向いている(もっとも私自身は使ったことがないので使用感はよく分からない)。公式サイトには次のように書かれてあり、小説向きであることが明言されている。

「源暎こぶり明朝」は小説創作活動や電子書籍閲覧など縦組み・長文・文芸向けをターゲットに製作された本文用明朝体です。

ヒラギノ明朝にも近しい印象のフォントで、小説同人誌ではMS明朝・游明朝に並んでよく見かける気がする。

筑紫明朝

筑紫明朝は有料フォントであるから、気軽に使うわけにはゆかない。しかし非常に美しいフォントであり、小説本文用としてぜひとも候補に入れておきたい。LETSの学生割か、もしくはmojimo-kireiというパックで契約すると、比較的安い年間価格で使用することができる。

小説向きのフォントのなかで比較的安い有料フォントとしては、他にもイワタ明朝体オールドのTrueType版がある。また、一太郎のプレミアム版を買うとフォントがついてくる(フォントを単体で買うよりも一太郎ごと買ったほうが安いので、実質「フォントを買ったら一太郎がついてくる」状態である)ので、フォントにこだわる向きは検討してみるとよい。

小説向きではないフォント

最後に、小説向きではないフォントを紹介する。例えば以下のようなフォントは小説で使わないのが無難である。

  • 創英角ポップ体
  • MS明朝
  • 小塚明朝
  • ほのか明朝
  • はれのそら明朝

創英角ポップ体やMS明朝は言うまでもなく、ほのか明朝やはれのそら明朝も小説には向いていない2

最も確実にフォントを選ぶには、フォントの公式サイトに行って、そのフォントがいかなる用途を想定して作られたかを確認するのがよい。こうすれば、フォントのセンスに自信がなくても、小説向きかどうかをある程度見極めることができよう。

九大文学では

今回、『九大文学』では基本的に游明朝を採用した。ただし本文の一部には游明朝体五号かなを使用し、小さなアクセントとした。

欧文は、游明朝にはCochinealを、游明朝体五号かなにはfbbを合わせた。游明朝とCochinealの組み合わせは相性がよいので試されるとよいであろう。

 

次回に続く)


  1. W3とW2の違いについては、亮月製作所*書体のはなし・ヒラギノ明朝体を参考にした。 ↩︎

  2. なぜわざわざ、ほのか明朝とはれのそら明朝を取り上げたのかというと、最近の文藝部の部誌に使われていたからである。今時の後輩たちは市販の小説本を読んだことがないのか……? と思わせるほど、小説っぽくないフォント選定であった。いや、フォントを工夫すること自体はありがたいことなんですけどね。というかこんなところで批判的なことを言わずに直接言えよという声が聞こえてきそう。すみません直接言う勇気はありませんでした。後輩たちが楽しく活動できているならそれでいいんです。 ↩︎

schedule 2020年4月6日
update 2021年12月10日
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